Column — Large Glass · Case
Case Study — 現場の実際
地上約230メートルの展望フロアから、街を見下ろす。視界をさえぎるのは、ガラスの壁が一枚だけ——。あの巨大なガラスは、誰が、どうやって、あの高さに据えたのでしょうか。
この記事では、超高層ビルの大開口ガラス施工がなぜ「特別な技術」なのかを、施主・設計者の方にも分かる言葉で解説します。風との戦い、建物の揺れ、1トンを超えるガラスの吊り上げ。そして最後に、その技術が住宅や店舗の大開口にどうつながるのかまでをお伝えします。
超高層のガラスは「窓」ではなく「外壁」——カーテンウォールとは
超高層ビルの外側をおおうガラスは、家で思い浮かべる「窓」とは役割がちがいます。そのガラスは、建物の重さを支えない「掛けるだけの外壁」です。これを専門用語でカーテンウォール(curtain wall)と呼びます。
建物の骨組み(柱や梁)が建物の重さを支え、その外側に、ガラスやアルミの部材でできた外壁を「カーテンのように掛けていく」。重さを負担しないからこそ、ガラスのように薄く軽い素材でも、超高層の外装に使えるのです。
図|カーテンウォールの仕組み(窓ではなく、掛けるだけの外壁)
ガラスファサードとカーテンウォールの違い
この2つの言葉はよく混同されます。整理すると——
- ガラスファサード=建物の「顔」となるガラス外装の全体像を指す言葉。デザインや見え方を語るときに使われます。
- カーテンウォール=そのガラスファサードを実現するための、重さを支えない外壁の「工法」。技術を語るときの言葉です。
つまり、「ガラスファサードという見た目」を「カーテンウォールという工法」でつくっている、という関係になります。(用語の定義は日本サッシ協会の解説に基づく)
なぜ超高層のガラス施工は「特別な技術」が要るのか
ここがこの記事の心臓部です。地上の建物なら問題にならないことが、超高層ではひとつひとつ大きな壁になります。理由は4つあります。
風との戦い
高い場所ほど、風は強くなります。地上では感じない風圧も、数百メートルの高さでは外壁を強く押します。そのため、ガラスと、ガラスを固定する金具(ファスナーと呼びます)は、風荷重——風が外壁を押す力——に耐える設計が前提になります。施工の現場でも、強い風のなかでガラスを扱うこと自体が、大きな難所になります。
建物は揺れて「ズレる」——層間変位
意外に思われるかもしれませんが、超高層ビルは強風などの影響でわずかに揺れます。そのとき、各階が水平方向にわずかにズレます。これを層間変位(そうかんへんい)といいます。
もし外壁のガラスがこのズレに追従できなければ、ガラスに無理な力がかかってしまいます。そこで、ガラスを固定するファスナーが、この階ごとの動きを「逃がす」仕組みになっています。建物の動きにガラス外壁が追従できるよう、設計・施工することが求められるのです。(ファスナーには風荷重・層間変位への追従などが要求される/日本サッシ協会・YKK AP Global)
1枚1トン超を、地上数百mへ——揚重(ようじゅう)
大開口の1ユニットは、500kg〜1,000kgを超えることもあります(日本サッシ協会・YKK AP Global)。これを高所へ吊り上げる作業を揚重(ようじゅう)といいます。クレーンで吊り上げ、ガラス面には真空吸盤(バキュームリフター)を使って扱います。重量物を吸着して搬送する機械の中には、2トン級まで対応するものもあります。
なぜそれほど重いのか。ガラスの重さは、ざっくり「面積(㎡)×厚さ(mm)×2.5kg」で計算できます(ガラスの比重は約2.5)。たとえば3m×6m×厚さ12mmのガラスなら、約540kg。ここに金物や枠が加わると、1ユニットはさらに重くなります。
ミリ精度の据え付け
吊り上げて終わりではありません。数百メートル上空で、隣のガラスと目地(つなぎ目)をそろえ、水を漏らさない精度で固定する。それも、風のなかでの手作業です。図面どおりミリ単位で収めるには、熟練の技術と段取りが欠かせません。
超高層ガラスはどう組み立てるのか——2つの工法
カーテンウォールには、大きく分けて2つの組み立て方があります。
| 工法 | 組み立て方 | 特徴 | 超高層での採用 |
|---|---|---|---|
| ユニット工法 | 工場で1ユニットに組み立て、現場で据え付け | 品質が安定・工期を短縮 | 主流 |
| ノックダウン工法 | 部材の状態で運び、現場で組み立て | 条件に応じて柔軟 | 条件次第で採用 |
ユニット工法
工場であらかじめ1ユニットに組み立て、現場ではクレーンで揚重して据え付ける方式です。現場での作業が少なく済むため、超高層の主流となっています。工場で精度を出してから運ぶので品質が安定し、現場の工期も大幅に短縮できます。
ノックダウン工法
部材の状態で現場に運び、現場で組み立てていく方式です。条件によってはこちらが適する場合もあります。
どちらにも一長一短があり、建物の規模や条件によって選びます。超高層では、工期と精度の面からユニット工法が選ばれることが多くなっています。(工法の整理は日本サッシ協会・YKK AP Globalに基づく)
私たちが手がけた超高層の現場——渋谷スクランブルスクエア
私たちは、東京・渋谷のランドマーク「渋谷スクランブルスクエア」のガラスファサードに携わりました。
このビルの公開情報は次のとおりです。
- 高さ約230m(229.7m)・地上47階
- 2019年竣工/開業
- 施工JV=東急建設・大成建設
- 設計=日建設計ほか
- デザインアーキテクト=日建設計/隈研吾建築都市設計事務所/SANAA事務所
外壁のガラスファサードはカーテンウォールで構成されています。(出典:日建設計公式ニュース/隈研吾建築都市設計事務所公式プロジェクトページ)
最上部の展望施設「SHIBUYA SKY」では、視界をさえぎるのがガラスの壁一枚のみ——という開放感が、このビルの象徴になっています。(出典:株式会社トータル実績ページ(total-facade.com)/東急建設ほか公式公開情報)
私たちは、このビルの窓ガラスの約99%を施工しました。1枚1トンを超える大板から、低層部の特殊な形状のガラスまで——ガラスファサードの最難関部を含む、ほぼすべての窓ガラスを担っています。
担当した内容として、1枚1トンを超える大板の取り扱い、低層部の異形(特殊な形状)・高透過合わせガラスの取付、高性能ガラスへの外部セラミック印刷などが公式に記載されています。高性能ガラスの第1面(外部面)へのセラミック印刷は、国内初の試みです。(2026-07-15裕二さん確認)
使用したガラス構成は、倍強度12+倍強度12ダブルLow-E+A12+倍強度12、倍強度12+倍強度12 他という仕様です。設計監理者による厳しい審査にも合格したうえで採用された案件でした。(親会社会社案内パンフレットより)
ランドマークの技術が、あなたの大開口へ
超高層で求められるのは、結局のところ「重い大板を、正確に、安全に据える」技術です。そしてこの技術は、そのまま住宅や店舗の大開口にも生きます。
むしろ、大きな窓を望む住宅・店舗こそ、この施工力が仕上がりを分けます。大板ガラスは重く、寸法精度も問われるため、一般的なガラス工事や工務店では扱いが難しいことも少なくありません。輸入から施工まで一貫で対応でき、超高層から住宅まで横断して手がけられる施工会社は、数少ない(希少な)存在です。
よくある質問(FAQ)
超高層ビルのガラス外壁は、建物の揺れにどう対応しているのですか?
ガラス外壁(カーテンウォール)は、建物が揺れて各階がわずかにズレる「層間変位」に追従するよう設計・施工されています。固定金具がその動きを逃がす仕組みです。
あの高さに、どうやってガラスを運び上げるのですか?
工場で組み立てたユニットをクレーンで揚重し、ガラス面は真空吸盤で扱います。1ユニットは500kg〜1,000kgを超えることもあります。
カーテンウォールとガラスファサードは違うのですか?
ガラスファサードは建物の「顔」となるガラス外装全体を指し、それを支えない外壁として実現する工法の代表がカーテンウォールです。
超高層と同じ技術は、住宅の大きな窓にも使えますか?
はい。重い大板を正確・安全に据える技術は、住宅や店舗の大開口にも生きます。むしろ大開口の住宅こそ、施工力が仕上がりを左右します。
ユニット工法とノックダウン工法はどちらが良いのですか?
それぞれに長所があり、建物の規模や条件で選びます。超高層ではユニット工法が主流です。
まとめ
- 超高層のガラスは「窓」ではなく、重さを支えない外壁=カーテンウォール。
- 特別な技術が要る理由は4つ——風荷重・層間変位・1トン超の揚重・ミリ精度の据え付け。
- 組み立て方にはユニット工法(超高層の主流)とノックダウン工法があり、条件で選ぶ。
- 私たちは渋谷スクランブルスクエアの窓ガラスの約99%を施工しました。
- その「重い大板を正確・安全に据える」技術は、住宅・店舗の大開口にもそのまま生きます。
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